「温かさや優しさ、どこか懐かしさを感じる幻想的な絵を描きたい」外田千賀 インタビュー

2025-05-13 作家インタビュー

外田 千賀 / ARTISTS

少女をモチーフに温かさや優しさ、どこか懐かしさを感じる幻想的な絵を描く外田千賀さんに、画家を志したきっかけや、制作する上で大切にしている事についてお話を伺いました。



外田 千賀

1986年 神奈川県生まれ
2012年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
2015年 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程芸術学専攻美術解剖学領域修了
現在   神奈川県にて制作中

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「自分の作品に共感してくれることが嬉しくて、いつしか画家として絵を描くことがライフワークに」



Q. 「画家を志したきっかけ」について教えてください。


子供の頃から絵本が好きでした。10代の頃から様々なアートに触れる中で、幻想画家の七戸優さんの画集は印象に残っています。やや暗鬱で不思議な魅力のある世界観なのですが、その影響もあり私の初期の作品は暗めなものが多かったように思います。他にはアンドリュー・ワイエスやグスタフ・クリムト、マイケル・パークスなど風景や人物をモチーフに描く作家の、色彩が美しく、写実性もありながら幻想的で物語性のある作品が好きですね。

小学生の頃は漫画家に、中学生の頃はイラストレーターに憧れ独学で描いていましたが、高校生の時にもっと絵が上手くなりたくて美大受験を決心しました。予備校時代には様々な作家の作品に触れながら、デッサンや絵作りの技術や心構えをひたすら叩き込まれました。その後、芸大で油絵と版画を、大学院では美術解剖学を専攻し、人体や自然の美や仏像について学んでからは、観音菩薩などの象徴的な存在やアルフォンス・ミュシャの描く優美な女性像などに惹かれて少女を描くようになりました。在学中からギャラリーで個展をするようになり、自分の作品を見てもらえたり共感して下さる方がいることが嬉しくて、いつしか画家として絵を描くことがライフワークとなっていました



Q. 作品を制作する上で大切にしていること、コンセプトやテーマについて教えてください。


大切にしていることは、作品を見て下さった方がホッとできるような、頭であれこれ考えずにぼんやりと眺めてもらえるように、やわらかい色彩と淡い光を感じられるような作品を制作することです。コンセプトとしては、少女をモチーフに温かさや優しさ、どこか懐かしさを感じる幻想的な絵を描きたいと思っています。


Q. 外田さんの作品には、幻想的で優しい表情の少女が描かれているのが印象的です。この少女たちは特定のモデルがいるのでしょうか? それとも、想像の中から生まれてくるものですか?



モデルが半分、想像が半分でしょうか。ドールが好きなので、気に入っているドールの造形をベースに、大まかな形態や陰影をとらえます。細かなパーツの形や微妙な表情は鏡で確認したり、子どもの顔だったり好きな女優さんやモデルさんなども参考にしながら、その時の気分や作品の雰囲気に合わせて想像で描きます。


「息遣いや香り、柔らかさ、体温を感じさせるような存在感を大切に」


Q.少女たちの優しい眼差しが、観る人の心を和らげるように感じました。
モチーフとしての少女を通して表現したいことや、一つひとつの表情へのこだわりについてお聞かせください。


子供の愛らしさと大人の女性の雅量を併せ持った少女をコンセプトに、人間味を感じるような表情に仕上げたいと思っています。慈しみと悲しみを湛えているような、見る人の心をただ静かに受け止めてくれて、でもどこかいたずらっぽさもあったり親しみやすさも感じる表情を描きたいです。解剖学的に自然に見えるよう意識しながらも、あまり一つ一つのパーツを主張させすぎず、ふんわりとした息遣いや香り、柔らかさ、体温を感じさせるような存在感を大切にしています。



Q. SNSを拝見し、作品一つひとつに気持ちを込めて、丁寧に制作されていることが伝わってきました。作品に対する想いや、制作過程について教えていただけますか?


私自身が絵の中の少女に会いたい”という想いが、描く動機として一番にあると思います。彼女たちは私の空想の存在ですが、私がこれまで生きてきたこと、生きていることの証だったり象徴でもあるので、イメージの中の少女がいる世界を形にして、いつでも目で見て確かめていたいのだと思います。それが他の誰かの人生の一コマに何かしらの影響を与えることができるのなら本当に嬉しいことなので、自分のためだけでなく、誰かの暮らしに寄り添うことができる作品を描いていきたいですね。昨年の個展ではありがたいことに、ほとんどの作品にご縁をいただくことができました。たくさんの方に支えられているんだなといつも感謝しています。



色の層を少しずつ重ねて(筆で描く→エアブラシでグラデーションを馴染ませる)を繰り返しながらじっくり描いていくため、1枚仕上げるのにも時間がかかります。SMや3号くらいなら2〜3週間くらいですが、6号くらいだと1〜2ヶ月はかかりますし、平均して1ヶ月に1枚描ければ速いほうといったペースです。もちろん大作なら何ヶ月もかかります。制作中、思うように進まない時はやはり苦しいですね。初めから計画的にしっかりエスキースをして描くわけではなく、大まかなイメージからふんわりと描き始め、徐々に「ここにはこれがあった方がいいかな」という感じでできていくので、完成するまでどうなるか分からないのです。だからこそ想像以上のものができたときには、絵の中の少女とぴったりと心が通じ合ったようでとても嬉しいです。


Q.背景の描写があることで、作品に幻想的な奥行きが生まれていると感じます。背景は作品にとってどのような意味を持つのでしょうか? また、どのようにイメージを膨らませていくのか、お聞かせください。



私の作品にとっての背景が持つ役割は、”少女のいる世界を演出する”ことでしょうか。最近は背景を細かく描き込んで説明することにさほど興味が持てないため、光と影を感じさせながらおぼろげな雰囲気が出せればそれで十分なんです。まず少女のポーズが決まったら、場面をイメージしながら背景で使うメインの色を決めて、それに合うように場面やモチーフを構成、配置していきます。少女の肌を明るい暖色系で描きたいので、おのずと背景の色はそれを引き立てる寒色系が多くなります。同じ青系の色でも緑に近い青だったり、紫に近い青だったり、ピンクやペールオレンジとグラデーションにすることも多いです。それもあってか、背景の一部は空のイメージで描くのが好きで、絵の中に空を表現した部分があると、広々とした抜けるような自由さが出て心地よいと感じますね。


「生きていく上で触れる人の優しさや温かさ、そして悲しみ。日々どんなことがあってもまた穏やかでいられるように」


Q. 過去の作風と現在の作風を比べると、背景や表情、色使いに変化が見られます。これまでの作風の変化について、そのきっかけや、ご自身の気持ちの変遷などをお聞かせください。



9年くらい前までは油絵具を、5年くらい前まではアクリル絵具を使用していました。それぞれ扱いやすさや絵肌の質感に一長一短がありましたが、そのどちらのいいところも併せ持ったようなアルキド樹脂絵具(アキーラ)に出会ってから絵具の発色を意識するようになり、絵の彩度や明度が上がって作品が明るくなりましたね。加えてお客さまからの反応だったり、その時々のアートシーンの流行や他の作家さんからの影響もあると思います。少女の表情もより鮮明で求心的だったり、穏やかな表情を描くようになったのではないでしょうか。
プライベートでもこの十数年間はライフステージの変化が大きい時期でしたから。生きていく上で触れる人の優しさや温かさ、そして悲しみ。日々どんなことがあってもまた穏やかでいられるように、そういった表情を描くことの意義を感じていたのだと思います。


Q.これまで描かれた作品の中で、ご自身が特に思い入れのある作品はありますか?




エターナル・ロマンス・シアター」は、躊躇いから抜け出せたような、純粋な気持ちで描けた作品です。「龍宮浪漫譚」は、苦手なパースの勉強をして背景を頑張ってみたのですが、背景を多く見せたり龍を大きく描いたことで、夢の中のような世界観をより表現できたのではないでしょうか。昨年の「美術の窓」さんの特集にも大きく掲載していただけて嬉しかったです。どちらも気に入っていて、名刺の絵柄にも選んでいる作品です。


Q. 日々の制作において、ルーティンやリフレッシュ方法、インスピレーションを感じる瞬間があれば教えてください。



アトリエを海の近くに引っ越したので、朝や夕暮れの時間に海まで散歩するのがお気に入りです。寄せては返す波の音を聴きながら、陽に照らされて畝る波の動きや水面の煌めき、どこまでも広がる空を眺めながら自然の崇高さや美しさを感じていると心が満たされていきます。海の近くに住むなんて思ってもみなかったのですが、不思議なご縁でここに住み始めてみてからはこんな暮らしを求めていたんだな、と気付きました。部屋から見える、日の出や日没の頃の刻一刻と様子を変えていく空模様や遠くに見える港の夜景なども、作品のインスピレーションになっているのかもしれません。日々、景色に癒されていますね。
あとは、絵を長時間描いていると体をあまり動かさず良くないので、体力が落ちないように無理のない範囲で体を動かすように気を付けています。


最後に・・・



年内にグループ展が3つと、来年6月に個展があります。

「春風駘蕩」みうらじろうギャラリー
2025/3/29(土)〜4/13(日) 12:00〜19:00 月曜・火曜休

「ephemeral〜少女たちの領域2025」みうらじろうギャラリー
2025/9/20(土)〜10/5(日) 12:00〜19:00 月曜・火曜休

「30の顔 2025」REIJINSHA GALLERY
【後期】2025/10/24(金)〜11/7(金) 12:00〜19:00 (最終日17時まで)日曜・月曜・祝日休

「外田千賀 個展」ギャラリー枝香庵
2026/6/6(土)〜15(月) 11:30〜19:00 (日曜・最終日は17時まで)水曜休

INTERVIEW

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