
「溢れる個性や価値観を大切に、違いを受け入れ合える世の中になってほしい」鴨奥美帆インタビュー
2025-06-13 作家インタビュー鴨奥 美帆 / ARTISTS
陶芸の手びねり技法で個性あふれる妖精を生み出す鴨奥 美帆さんに、アーティストを志したきっかけや、制作する上で大切にしている事、手びねり技法について詳しくお話を伺いました。

鴨奥 美帆
陶芸の手びねり技法で妖精を作っています。
私の生み出す妖精は、髪型・表情・色ひとつひとつ違い個性に溢れています。
釉薬も自分で調合しており、オリジナルの色になっています。
好みの妖精を見つけてみてくださいね。
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【Instagram】
Q. アーティストを志したきっかけを教えてください。
小さい頃から絵を描いたり、ものを作ったりするのが大好きでした。使わないダンボールや食品トレーで工作したり、チラシの裏があればすかさず絵を描いているような子供でした。
その後は、アートに関わる仕事に就きたいと思い、美術大学に入学しました。そして、陶器が好きで立体作品を作ってみたいという好奇心から、陶芸専攻を選びました。陶芸の手びねりをした時の粘土を触る手の感覚や焼きあがった時の感動がクセになり、陶芸にのめり込んでいきました。段々と納得のいく作品が作れるようになってきて、作品をもっと色んな人に見て欲しい!アーティストとしてやっていきたい!という想いが芽生えるようになりました。



Q. 作品を制作する上で大切にしていること、コンセプトやテーマについて教えてください。
自分が強烈に作りたい!かわいい!と思うものを作ることです。いつもイラストから作品を作っているのですが、イラストに描き起こした時に、自分がときめくものを作っています。その強い想いが制作のモチベーションになっています。


Q. 鴨奥さんの作品には、ふわふわと優しい雰囲気をまとった妖精がよく登場します。この妖精のキャラクターはどのようにして生まれたのでしょうか?作り始めたきっかけなどがあれば、ぜひお聞かせください。
大学3回生の時、初めて自由なテーマで作品を作れる機会がありました。
自分の作りたいものを考えた時に、私は目があるものに愛着を持つということに気づき、人型の作品を作り始めました。作るのが楽しくて、11体も仕上げることができました。



最初はシンプルな髪型が多く、妖精という感じではなかったのですが、その中でもモコモコとした髪を作るのがとても楽しく、色々と制作していくうちに現在のような妖精を作るようになりました。









Q.妖精たちのカラフルでふわふわとした髪型が、独特な世界観や優しい雰囲気を生み出していると感じました。この髪型にはどのようなこだわりがあるのでしょうか? また、表現したいテーマや意図があれば教えてください。
髪型のラインは滑らかに、自分にとっての心地のいい形を目指しています。スプレーガンで釉薬を吹き付け、ふわっとしたグラデーションを出すことで、妖精の浮遊感を表現しています。妖精たちの髪型・色には同じものがありません。溢れる個性や価値観を否定することなく、違いがあってもいいんだと受け入れ合える世の中になってほしいという願いがこもっています。
Q. 鴨奥さんの作品は、陶芸の「手びねり技法」で制作されていますが、この技法について詳しく教えてください。具体的にどのような手順で制作を進めるのか、また色をつけるタイミングについてもお聞かせください。
手びねり技法は、ひも状にした粘土を積み重ねて形を作る技法です。なので、内側は空洞になっています。



③ ①と②を繰り返しながら、理想の形にできたら口を閉じて完成!
乾燥していない状態で、どんどん積んでいくと重みで沈んできてしまうので、1日で仕上げることができません。私は仕事終わりに制作しているので、成形に1ヶ月は時間がかかります。粘土同士の乾燥の差が大きいとひび割れの原因になるので、作品の管理が非常に大切です。しかし、完全に乾燥してしまうと形を変えることができなくなるので、そこが陶芸の難しいポイントだなと思っています。成形が終わって完全に乾燥させたら、焼成します。陶芸は2回焼成します。1回目は素焼きといって、850℃で焼きます。2回目は本焼きで、素焼きをした後、釉薬という上薬を塗って、1230℃で焼きます。私は透明の釉薬に顔料を自分で調合してオリジナルの釉薬を作り、スプレーガンで吹き付けています。焼く前は白っぽいのですが、焼き上がると鮮やかに発色します。
焼き上がりを見て感動することもありますが、釉薬が剥げていたり、ヒビが入ったりすることもあります。そこも、陶芸の難しいところです。






作品のイメージはまだ作ったことのない唯一無二の妖精を目指して、イラストに起こしていきます。試行錯誤しながら理想の形になるように粘土を積んでいくため、完成に近づくにつれて我が子のような愛着も湧いてきます。
Q.作品の素材や質感についてのこだわりを教えてください。
妖精の髪の毛の部分は釉薬を使っていますが、体の部分は釉薬がつかないようにマスキングをして粘土そのものの質感を残すようにしています。釉薬を塗った部分はツルツル、塗っていない部分はザラザラとしていて、質感の違いも楽しめる作品になっています。




Q.立体作品ならではの魅力や、おすすめの飾り方について教えてください。
立体作品の魅力は、どの方向から見ても楽しめるところだと思います。私の作品のモコモコとした髪の毛も見る方向によって、印象が変わり面白いので、ぜひクルクル動かしながら見ていただきたいです。
飾る場所は帰ってきてすぐ目に入る玄関がおすすめです。疲れて帰ってきた時に、妖精を見て笑顔になってもらえれば嬉しいです。
Q. Instagramで手びねりの制作動画を拝見しました。制作中はどのようなことを考えているのでしょうか? また、思い通りにいかないこともありますか?
私は手びねり技法で粘土を触る感覚がとても好きで、形に合わせて手を動かし理想の形になっていくことに幸せを感じます。なので、楽しいという気持ちが常にあります。イメージと違っていても、自分がいいなと思えばそのまま進めますが、少しでも嫌だなと気持ちが乗らなくなれば、すぐにやり直します。乾燥すると直せなくなるので、早めに判断するようにしています。

Q.これまでに「これは挑戦だった!」と思うような作品や、新しい試みをした作品はありますか?
今まで釉薬は筆で塗っていたのですが、スプレーガンで吹き付けるようになりました。筆塗りはムラが出やすく、水彩画のような優しい雰囲気に仕上がります。それも可愛いのですが、綺麗なグラデーションを作ってみたいという気持ちからスプレーガンを使うという新しい試みをしました。始めは風圧の調整や、発色する吹付量を探るのが難しかったのですが、慣れてくると自分の体の一部のようにスプレーガンを扱えるようになりました。スプレーガンで吹き付けるとグラデーションがとても綺麗に出て、満足のいく仕上がりになりました。挑戦して良かったです。




Q.制作を続ける上でのルーティンや、リフレッシュ方法、インスピレーションを得る瞬間について教えてください。
仕事終わりに制作する気にならないことはよくあるので、まず◯分だけやろうと決めるようにしています。この時間は、できるだけ短い時間にしています。私の場合、一回始めると必ず時間をオーバーして熱中するので、少しでいいからやってみるっていうのがとても大事だと思っています。1時間だけのつもりが3時間くらい過ぎて、もう少しやりたかったなという事はよくあります。あと、最近は生活を楽しむということを大切にしています。散歩をして綺麗な花や珍しい鳥を見つけたり、ちゃんとしたご飯を作ってみたり。
自分を幸せにするにはどうしたらいいかな〜と考えることが増えました。そうすると、心もイキイキとして創作意欲も湧いてくるような気がします。

最後に・・・






2025年5月14日〜5月19日/銀座三越
グループ展「完全」
2025年11月頃
「Emergence: Crafting Futures from Clay 」
京都にて個展とノーガホテルのロビーで展示予定