美術ヒストリー
ミニマリズム
ミニマリズムは20世紀の半ば、現代アートの中心地となったアメリカで生まれました。装飾性を極限まで排除し立ち現れた幾何学的でシンプルな立体作品は、絵画でも彫刻でもないアート作品として大きなうねりを巻き起こします。このミニマリズムの先駆者的存在がドナルド・ジャットです。スケールの大きい作品を作ることも特徴の一つで、作品に注目するだけでなく作品を置く空間にも作用があることを提示したのです。これらの作品群を「スペシフィック・アート」とも呼び、銅やアルミニウムなどの素材を多く採用しています。作品と場所の関係性が密接であることも従来のアートとは異なる部分です。数学的に規則正しい統一感とリズムが現代アートを大きく前進させていきます。
ネオダダ
ネオダダは同時代に全盛を極めた抽象表現主義の影響を強く受けながら、アッサンブラージュなどのダダで確立した技法も合わせて新しいアートの文脈を打ち出しました。例えばジャスパー・ジョーンズの「旗」というシリーズは、アメリカの国旗をそのまま絵画として描いています。これにより国旗という記号化された旗が持つ本来の意味が排除され、絵画が2次元のメディアであり、それゆえに作品としてのマチエールが圧倒的であることを証明しています。その他にもロバート・ラウシェンバーグは身近な素材をさまざま集めてコラージュした立体作品を発表し、既製品や日用品を3次元のアート作品として文脈に落とし込むことに成功しました。ネオダダがその後のアメリカンポップアートへと繋がっていきました。
カラーフィールドペインティング
バーネット・ニューマンの「アンナの光」に代表されるように、均一な色彩が大きな画面を覆うように私たちの網膜に色彩が迫る効果があるのが、カラー・フィールド・ペインティングの特徴です。つまり作品の内容から何か知覚する従来の絵画とは異なり、色彩や形をダイレクトに体験することで感じる人間の感覚を大切にしています。静かでどこかインスピレーションを与えてくれるような深い瞑想を感じる作品群が多く、鑑賞者に様々な感情を喚起させる作用をもたらしてくれます。例えば人間が心動かされる夕日や海の色は、視覚では掴みきれない深さから立ち現れたような色彩です。永遠や無限を感じるアートです。
ビデオアート
形而上とは、実際に目で見て確かめられない事象の本質を捉え、直感的に探求することです。なかでもイタリアの芸術家ジョルジョ・デ・キリコは、形而上絵画の最重要人物です。キリコは自然現象の背後にある認識不可能な世界についての表現手段として「デペイズマン」を用いました。これは芸術の分野では奇妙な組み合わせによって、鑑賞者に意図的な違和感を与えようとした手法です。空虚で静かな都市空間、現実には起こりえない奇妙な風景、古代と現代のモチーフが並列に共存するなど、なんとも形容しがたい不思議なリズムと調和がある世界は、哲学者のニーチェに決定的に影響されています。こうして後のシュールレアリスト達に絶大に支持されていくのです。
パフォーマンスアート
パフォーマーの身体を用いたパフォーマンスを、路上やギャラリー、劇場など様々な場所で行います。基本的には演劇のように役を演じるのではなく、パフォーマー自身のまま表現をします。絵画や彫刻とは異なり、作品に時間や身体性が加わることが大きな特徴です。パフォーマンスアーティストのマリーナ・アブラモヴィッチは、パフォーマーと鑑賞者の関係性の変化、それに伴う空間認識の変化、身体の限界や精神の拡張などの可能性について探求した意欲的な作品を発表しています。また常にライブという現場での生の表現のため、アーティスト自らパフォーマーになることで成立するアートであることも特徴です。
インスタレーション
インスタレーションとは、絵画や彫刻を展示するのとは異なり、設置する場所や空間、建物自体の土地や状況などの関係性を軸とした展示であることも特徴です。素材にこだわった材料から派生した、歴史や音楽などが盛り込まれた展示構成になっていることも多いのです。先駆的な例として、アパートの一室をまるごと作品化したK・シュヴィッターズの「メルツバウ」が作品と環境についての関心を高めてくれました。作品と映像やサウンドが一体になるだけでなく、最近はAI(人工知能)やバイオテクノロジーなどの先端技術が作品に利用されることもあり、20世紀に生まれたインスタレーションは「ニューインスタレーション」と呼ばれ、その活動や認識する領域は多様化しながら拡大しています。
