キューピッドと天使。どちらも羽根を持ち絵画の中で似た姿に描かれることがありますが、実は起源も役割もまったく異なります。本記事では絵画を通して、天使とキューピッドの違いを解説します。
キューピッドとは
神話に登場する愛の神
キューピッドはギリシャ神話の「エロス」に由来し、ローマ神話では「クピド(Cupid)」または「アモール(Amor)」と呼ばれる存在です。愛と欲望を司り、人々の心を射抜く役割を持っています。
絵画におけるキューピッドの特徴
弓矢を持つ
キューピッドの弓矢は、恋愛感情を生み出す力と愛の不確かさを象徴する道具です。絵画においても弓矢は「恋を射抜く存在」としてキューピッドを見分ける最大の特徴になっています。

エミール・ムニエル 「二人のアモール」
ヴィーナスと共に描かれる
ローマ神話では、キューピッド(クピド)はヴィーナスの息子とされます。絵画では、ヴィーナスがキューピッドに寄り添ったり、肩に手を置いたりする場面が多く見られます。

ポンペオ・ジローラモ・バトーニ
「キューピッドを愛撫するヴィーナス」
天使とは
宗教画に登場する神の使者
天使はユダヤ教・キリスト教・イスラム教に共通して登場する存在です。神の意志を人間に伝える使者、守護者、導き手として描かれます。
絵画におけるキューピッドの特徴
楽器を持っている
宗教画において天使が楽器を持つ姿は、神を賛美する存在としての役割を強調するモチーフです。
リュート:ルネサンス期に多用され、調和や美を表現する楽器として天使が奏でます。
ラッパ:最後の審判や神の到来を告げる象徴的な楽器です。

ロッソ・フィオレンティーノ
「リュートを奏でる天使」 (1518)
ヴィーナスと共に描かれる
赤子のような姿で描かれる天使は、場面全体の荘厳さや神聖さを支える「背景的な調和の担い手」として描かれます。キリスト教美術において聖母マリアや幼子キリストの周囲に配置されることが多いです。

ラファエロ・サンティ
「システィーナの聖母」 (1512-1513)
似て非なるキューピッドと天使
翼を持つ幼児の姿は一見同じに見えても、絵画の中で果たす役割はまったく異なります。キューピッドは神話世界で愛を操る存在として、天使は宗教画において神を賛美し、秩序と神聖さを体現します。
天使とキューピッドの違いを知っておくことで、絵画鑑賞がより楽しくなるかもしれません。
