バベルの塔とは

ピーテル・ブリューゲル(父) 「バベルの塔」 (1565)
簡単なあらすじ
バベルの塔は、旧約聖書『創世記』第11章に登場するエピソードです。
ノアの洪水のあと、人類は再び増え、皆が同じ言葉を話していました。
人々は協力し、天に届くほどの塔を建てて「名を上げ」、世界中に散らされないようにしようと計画します。
しかしこの行為は、神にとって人間の傲慢さを象徴するものでした。
人々が一つの言語で結束し、神の領域へ踏み込もうとすることを危険視した神は、彼らの言葉を混乱させます。
その結果、突然互いに言葉が通じなくなり、塔の建設は不可能となりました。
意思疎通ができなくなった人々は協力を失い、それぞれ別々の地へ散らされていきます。
この出来事は「言語の起源」を説明する物語として知られているだけでなく、
人間の限界、神の怒り、文明の行き過ぎへの警告
といったテーマを象徴する神話として現在まで語り継がれています。
ブリューゲルの《バベルの塔》

ピーテル・ブリューゲル(父) 「バベルの塔」 (1563)
バベルの塔は聖書に登場する物語でありながら、芸術や文化においても長く象徴的な存在として描かれてきました。最も有名な表現例は、16世紀の画家ピーテル・ブリューゲル(父)が1563年頃に描いた「バベルの塔」です。巨大な塔が都市の中にそびえ立つ様子を緻密に描いたこの作品は、ヨーロッパ美術史において人間の野心と文明の限界を示す象徴的な絵画として高く評価されています。ブリューゲルの塔は、建築的な迫力と同時に完成しない計画の不安定さを表現しており、後世の芸術家や思想家に強い影響を与えました。
「大バベル」と「小バベル」
ブリューゲルは「バベルの塔」を複数描いており、ウィーンの美術史美術館に所蔵される大作「大バベル」と、ロッテルダムのボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館に所蔵される小型の「小バベル」が知られています。両者は構図が似ていますが背景や塔の周囲の描写に違いがあり、それぞれ独自の魅力を持っています。
ニムロド王と労働風景
「大バベル」の画面左下には、塔の建設を命じたとされるニムロド王が従者とともに描かれています。ニムロド王とはノアの曾孫にあたるとされる強力な王です。
さらに塔の周囲には数百人規模の労働者が描かれ、石材の運搬や建設作業の様子が細かく表現されています。これらの緻密な描写は当時の建築技術や社会生活を反映していると考えられ、作品にリアリティと象徴性を与えています。
芸術と文化への影響
バベルの塔の物語は、人々が天に届く塔を築こうとした試みから始まり、神の介入によって言葉が乱され、世界へ散らされるという結末を迎えます。この壮大な神話は、古くから文学・美術・思想に大きな影響を与え、人間の傲慢さや文明の限界を象徴する物語として語り継がれてきました。
ブリューゲルが描いた《バベルの塔》は、その圧倒的なスケールと構造の不安定さを同時に描き出し、見る者に人類の夢と破滅の両面を想起させます。そのイメージは時代を超えて多くの芸術家や思想家を刺激し、今日に至るまで私たちの想像力を掻き立て続けています。
