古代エジプト美術の謎:なぜ人物は横向きに描かれるのか?

アートを学ぶ

2025年11月01日

「古代エジプトの壁画って、なんでみんな横向きなの?」

美術館や教科書で一度は目にしたことのある、あの独特なポーズ。頭と足は横向きなのに目や胴体は正面を向いている姿勢に違和感を覚えた人も多いのではないでしょうか。

実はこの描き方には古代エジプト独自の美術ルールと宗教的な意味が込められています。写実性よりも情報の正確な伝達を重視したこのスタイルは死後の世界や神々への敬意とも深く関係しています。

本記事では古代エジプト美術における人物の横向き描写の理由を描写ルール・宗教的背景・記録性の3つの視点から解説します。

1. 描写ルール:最もわかりやすい角度で描く「複合視点法」

頭と脚は横向き、目と胴体は正面を向く独特な描き方は、古代エジプト美術ならではの視覚表現技法「複合視点法」が用いられています。この技法は人物の各部位を最も特徴的に見える角度で描くというルールに基づいています。写実性よりも視覚的な情報伝達の明快さと象徴性を重視していたのです。

また、エジプト美術は単なる絵画ではなく、宗教的儀式や死後の世界への案内図としての“視覚言語”として機能していました。

エジプト絵画

2. 宗教的背景:神々への誠実な表現

古代エジプトの絵画は、神々や死者への捧げ物としての役割を持っていました。壁画やレリーフは墓や神殿に描かれ、死後の世界での案内図や祈りの場として機能します。

古代エジプトでは、人物の姿勢はその人の役割や階級を示す記号でした。例えば、王や神は堂々と直立した姿勢で描かれることが多く、威厳と支配力を象徴します。一方、召使いや子供は小さくかがんだ姿勢で描かれ従属や謙遜の態度を表します。

特に神々や王が描かれる場面では、所作の正確さが宗教的な効力に直結すると考えられていたため、画家は定型化されたポーズを忠実に守る必要がありました。

エジプト絵画

3. 社会秩序と情報の可視化

古代エジプト美術は単なる装飾や芸術表現ではなく、社会の構造や人々の役割を視覚的に記録する手段として機能していました。壁画やレリーフに描かれた人物たちは、誰がどのような地位にあり、何をしているのかを一目で伝えるように設計されています。

王や神官など地位の高い人物は画面の中で大きく描かれます。これは単なる強調ではなく、身分の高さを視覚的に示すルールでした。逆に召使いや子供は小さく描かれ、従属的な立場を明確に表しています。

エジプト絵画

描かれる神々

古代エジプト美術には、神々の姿が頻繁に登場します。これらの神々は宗教的な信仰の対象であると同時に、視覚的な象徴として重要な役割を果たしていました。

神の名前よく描かれる姿象徴・役割
ラー太陽円盤を頭に乗せた人物太陽神・創造神
ホルスハヤブサの頭を持つ人物天空の神
アヌビスジャッカルの頭を持つ人物ミイラ作りの神
セトセト動物と呼ばれる謎の生物の頭部嵐・混乱・砂漠の神
オシリス緑色の肌で描かれる人物冥界の神

横向きの人物が語る、古代エジプトの世界観

古代エジプト美術における人物の横向き描写は、宗教的な信仰、死後の世界への備え、そして社会的な階層を明確に示すための視覚的なルールに基づいています。複合視点法によって、身体の各部位を最も認識しやすい角度で描くことで、誰が何をしているかを正確に伝えることが可能になりました。

現代のアイコンやピクトグラムにも通じるこの視覚設計は、古代エジプトが築いた情報伝達の工夫の一例と言えるでしょう。

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