名画の裏側を解説:ムンク「叫び」にまつわるエピソード5選

アートを学ぶ

2025年12月01日

エドヴァルド・ムンクの代表作「叫び」は近代美術史の中でも最もよく知られた絵画の一つです。鮮烈な色彩と歪んだ構図で不安を表現したこの作品は単なる美術品にとどまらず、社会現象としても語り継がれています。この記事では「叫び」にまつわる5つのエピソードを取り上げ、名画の裏側を解説します。

 

エドヴァルド・ムンクとは

エドヴァルド・ムンク(1863–1944)はノルウェーのロイテンに生まれました。幼少期に母と姉を病で亡くし、ムンク自身も体が弱く、精神的な不安や孤独を抱えながら育ちました。

美術学校に入学し、パリでの留学で印象派や象徴主義の影響を受けながら独自の表現を模索しました。

1890年代以降、内面の感情や不安を主題とする作品を多く制作し、愛・死・不安をテーマにした「生命のフリーズ」で注目を集めました。人間の感情や精神状態を色彩と構図で表現する手法は、後の表現主義に大きな影響を与え、ムンクは北欧を代表する近代画家として美術史に位置づけられています。

エドヴァルド・ムンク

エドヴァルド・ムンク 1933年の写真 引用:Wikipedia

「叫び」にまつわるエピソード

「叫び」は強烈な不安と孤独を象徴する表現主義の絵画です。夕暮れの橋の上で耳をふさぎ口を開けた人物が描かれており、背景には赤く渦巻く空と湾曲したフィヨルドが広がっています。ムンク自身が「自然の叫びを感じた」と語った体験をもとに、内面の感情が外界と交差する瞬間を視覚化した作品です。

エドヴァルド・ムンク「叫び」

エドヴァルド・ムンク「叫び」 「叫び」 (1893)

その1:4種類の「叫び」が存在する

「叫び」はムンクによって複数の技法で繰り返し制作されており、現存する主要なバージョンは油彩、パステル、テンペラなど異なる画材や素材を使った4種類にのぼります。1895年に制作されたパステル画は2012年ニューヨークのサザビーズで約96億円で落札され、当時の美術品として史上最高額を記録しました。

その2:「叫び」は叫んでいる絵ではなかった

中央の人物が口を開けていることから人物が叫んでいると思われがちですが、ムンク自身が残した日記には、作品の着想となった体験がこう記されています。

「私は自然を貫く果てしない叫びを聞いた」

この記述から、ムンクが描こうとしたのは自然を貫く果てしない叫びに圧倒されて耳を塞いでいる姿なのです。作品の原題はドイツ語で「Der Schrei der Natur(自然の叫び)」とされており、人物の叫びではないことが明示されています。

その3:背後に描かれた2人の人物

ムンクの「叫び」には中心人物の背後に小さく描かれた2人の人物がいます。ムンク自身が残した日記に「私は2人の友人と歩道を歩いていた」と記述があることから、後方の2人は友人たちである可能性が高いとされています。

この2人の存在はムンクが感じた「他者との断絶」や「理解されない孤独」を象徴していると解釈されます。中心人物が感情の渦に巻き込まれている一方で後方の人物は何事もないかのように歩き続けている。その距離感と無表情さがムンクの内面の孤独を際立たせています。

その4:ムンクが“叫び”を感じた場所

この風景にはモデルがあり、ノルウェー・オスロに実在する「エーケベルグの丘」がその舞台とされています。現在この場所はムンクの叫びの丘として知られ、観光スポットにもなっています。

その5:過去に2度の盗難事件があった

「叫び」は過去に2度の盗難事件に遭っています。1度目は1994年、オスロ国立美術館から盗まれました。犯人は窓を破って侵入し、展示中の作品を持ち去りましたが、数か月後に捕まり、作品も回収されました。2度目は2004年、ムンク美術館から「叫び」とムンク作「マドンナ」が白昼堂々と盗まれました。その2年後、両作品は回収され、犯人も有罪判決を受けました。

不安を描いた絵が、なぜ今も語られるのか

ムンクの「叫び」は単なる絵画ではなく、人間の根源的な感情を象徴する作品です。描かれている不安や孤独は、時代を超えて私たちの心に響き続け、現代を生きる私たちにも通じる普遍的なテーマを持っています。名画は今もなお語り継がれ、私たちに人間の感情の深さを問いかけ続けています。

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