「内面的な感情や記憶に触れるようなメッセージを伝えていきたい」ナカジマ ミノル インタビュー
2024-10-15 作家インタビューナカジマ ミノル / ARTISTS
多彩な色彩と、幾何学的な形や植物のデフォルメを取り入れた独自のスタイルで知られるナカジマ ミノルさんに、画家を志したきっかけや作品に込める想いについてお話を伺いました。
ナカジマ ミノル
東京文京区生まれの抽象画家・イラストレーター。長年にわたりファッションデザイナー、ファッションデレクター、テキスタイルデザインを経験した後、商業デザインにおける表現の限界を感じ、画家に転身。
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「誰にも縛られることなく、自由に表現できることは大きな魅力」
Q. 「画家を志したきっかけ」について教えてください。
画家、アーティストを志したきっかけは、長年にわたってファッションデザイナーやファッションディレクター、テキスタイルデザイナーとしての経験、商業デザインにおける表現の限界を感じたことでした。つねにクライアントや市場のニーズに応えることが求められ、その中で自由な表現が保留されることが多くありました。アートの世界では、誰にも縛られることなく自分の内面的なビジョンや感覚を自由に表現できる点に大きな魅力を感じより深く自分と向き合うために画家、アーティストとしての道を選びました。
Q. 作品を制作する上で大切にしていること、コンセプトやテーマについて教えてください。
作品を制作する上で、第一に自分がその作品を部屋に飾りたいかどうかを大切にしています。 インテリアとしての調和や空間に与える影響を意識しながら、ビジュアルや雰囲気を構築します。またアナログとデジタルの技術を融合させることも重要なテーマです。それぞれの良さを引き出し、独自の表現を生み出すことで、新しい視覚体験を提供したいと考えます。
Q. ナカジマミノルさんの作品は、幾何学的な形や植物をモチーフに、美しい色彩で表現されている点が非常に印象的です。作品を通して、どのようなメッセージを伝えたいと考えていますか?また、そのメッセージはどのように変化してきたのでしょうか?
幾何学的な抽象画では、区切られた面ごとに異なるマチエールや色の掠れを生かし、それが視覚的なリズムを表現しています。
花のモチーフにおいても同じく抽象的な質感を適用し、具体的な形状を持つ花に対しても独特のマチエールを取り入れることで、具象と抽象の融合を目指しています。色彩に関しては、特に重なりや掠れといった効果にこだわり、色が重なり合うことで生まれる微妙なニュアンス、剥がれ落ちて見えてくる下の色とのコントラストなどが作品に気を配っているポイントだと思います。これにより、色が特有の時間経過や変化を象徴するような表現ができればと思います。
作家活動を始めた頃は、シンプルな形状と色の美しさに焦点を当てていましたが、現在では時間や変化、そして見る人の感覚に相当する要素をより強調するようになりました。作品が視覚的な経験を超え、内面的な感情や記憶に触れるようなメッセージを伝えられることを意識しています。
「表面的な美しさだけではなく、社会的なメッセージや内省的なテーマも感じてもらいたい」
Q.コラージュで制作された作品には、抽象画とはまた異なる独特の世界観があり、強く引き込まれました。どのような思いで制作されたのでしょうか?
コラージュ作品については、個人的な趣味や関心が強く反映されています。特に映画、音楽の影響や1950年代から60年代、70年代のアメリカやヨーロッパにおける時代の動きと、それに同調するサブカルチャーに興味を抱いてきました。そうしたカルチャーをベースに、自分なりの視点でシニカルな表現を取り入れています。コラージュ技法は、異なる時代や要素を生かすことで、矛盾や対立を意識させ、見る人に多面的な解釈を促することができます。そのためあえて異質な、素材を並べることで表面的な美しさだけではなく、社会的なメッセージや内省的なテーマも感じてもらいたいという思いで制作しています。
『Red Zeppelin』は、現実と非現実が交錯する不思議な世界を描いたコラージュアート作品です。作
品の中心には、真っ赤な飛行船が北極のような真っ白な大地の上を墜落しようとしています。冷たく
広がる白い大地と、それに対照的な鮮烈な赤の飛行船とのコントラストが、観る者に強い印象を与え
ます。飛行船が墜落するその現場には人間らしき集団がいますが、その姿は少し不気味でどこか謎めい
た存在感を漂わせています。この怪しげな人物たちがただの観客なのか、それとも何か別の意図を持
つ者たちなのかは定かではありません。
一方、その危険な状況から逃げ出すように、ペンギンの群れが走っていきます。しかし、その中に一
匹だけ背中にミサイルを背負ったペンギンがいます。この奇妙なペンギンは、作品全体にシュール
でユーモラスな要素を加えつつ、見る者に現実と非現実の境界線を問いかけます。『Red Zeppelin』
は、人間の技術的な進歩や野心のもろさ、自然との対立、そして混乱の中に潜む不条理さを象徴的に
表現した作品です。
あまり説明してしまうと作品を見る側の想像を限定してしまいますね…自由に想像してください。
Q. ナカジマミノルさんは、作品に合わせて額縁も制作されているとのことですが、それぞれの作品に調和した温かい雰囲気がとても魅力的だと感じます。額縁制作におけるこだわりや工夫について、お聞かせいただけますか?
アクリル画(キャンバスや木製パネル)に関しては、すべてオリジナルで額縁を制作しています。既製の額縁では、装飾が派手すぎるものが多く、 特に現代アートやインテリアを意識した作品にはシンプルで調和する額縁がないことが多いため、自分で作ることを選びました。
額縁は、限定作品を囲むものではなく、作品の一部だと考えています。
額縁が作品と調和し、その作品を引き立てながらも主張しすぎない、そんなバランスを大切にしています。 また手作りで額縁を制作することで、作品ごとに異なる雰囲気やコンセプトに合わせた細かい調整が可能になります。制作の難しさはありますが、それ以上に作品を額縁が一体となってはじめて完成するという満足感を得られるということが大きな理由です。
Q.日々の作品制作にあたり、ルーティンやリフレッシュ方法、インスピレーションを感じる瞬間などありましたらお聞かせください。
リフレッシュ方法としては、アコースティックギターでの弾き語りや、キャンプで音楽を聴きながらお酒を楽しむ時間が特に好きです。自然の中で過ごすことで心がリセットされ、新たなアイデアが湧いてきます。
日々のルーティンとしては、昔から猫好きで、保護猫を3匹飼っていて猫と戯れるのがいちばんのリラックスできる瞬間ですね… インスピレーションを感じる瞬間は、美術館で好きな画家の作品を見て、その技法や色彩に触れた時です。 アーティストの試行錯誤や独自の視点が、自分の創作にも刺激を与えてくれます。 最近のマイブームは、iPad Proでお絵描きですね、デジタルツールを使うことで新しい表現の可能性を広げながら自由にアイディアを試しています。
Q. ナカジマミノルさんにとってアートとはどのような存在ですか?
私の人生においてアートは、自己探索と成長のための大切なプロセスであり、私の考え方や感じ方を表現する手段でもあります。また、他者とのつながりを築く手段としても機能していて、作品を購入していただいた方々にも何かを感じてもらえる、共鳴できる瞬間があることに大きな喜びを感じます。
Q. ご自身の作家活動において影響を受けた人物や出来事などはありますか?
私の作家活動に影響を与えた人物としては、エゴン・シーレやロートレック、ゲルハルト・リヒター、大友克洋といったアーティストが挙げられます。シーレやロートレックの大胆な線と強烈な表現力、リヒターの抽象と具象を行き来する技法には深く惹かれました。特に、彼らの作品に見られる感情の露出や人間の内面に対する探求心が、私の作品にも通じていると感じています。また、大友克洋の緻密な世界観やストーリーテリングは、グラフィックの力とその表現の無限の可能性を教えてくれました。これらのアーティストたちの影響を受けつつ、私自身のスタイルを模索し、進化させていくことが作家活動の大きな原動力となっています。
Q. 技法や表現手法について、新しく試してみたいものや興味のあるものはありますか?
画家を始める前からシルクスクリーンに取り組んでいましたが、最近はアクリル画やイラストが中心になっています。今後は、再びシルクスクリーン作品の制作にも挑戦していきたいと考えています。シルクスクリーンならではの鮮やかな色彩や層の表現には、今でも強く惹かれています。また、過去に彫金も手がけていた経験があるため、現在テキスタイルの要素を取り入れたオーナメント(ブローチ的な)の制作にも挑戦しています。技法としてはスーパーフラットのような平面的でポップなスタイルにも興味があります。デジタルとアナログを融合させた表現方法をさらに探求し、新たな視点を作品に取り入れていきたいと思っています。
最後に・・・
今年の後半は作品販売が中心となっており、特に展示会の予定はありません。しかし、公募展への応募を検討しており、新たな機会を模索しています。作品を通じて多くの方々と繋がることができれば嬉しいです。展示の機会があれば、その際にぜひお知らせしたいと思いますので、引き続き応援いただけると幸いです。
最後に、私の作品や活動に興味を持っていただけたら、ぜひお気に入り登録やコメント、シェアを通
して応援していただけると嬉しいです。皆さんのフィードバックやサポートが、今後の創作の大きな
励みになります。