「登場する人物を通して、時の流れや物語を描く」森田 悠介インタビュー
2022-06-22 作家インタビュー森田 悠介 / 画家
ミステリアスで神秘的な世界観が魅力的な森田悠介さんに、コンセプトやテーマ、作品に対する想いについて詳しくお話を伺いました。
森田悠介/ Yusuke Morita
時代と国境を超えて残る古紙に、 神話・近代の出来事から想起される物語を描いています。登場する人物を通して、誰にでも訪れる別れや喪失感など、 人間の足跡や残された人の傷跡を表したいと試みています。
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「 自身のためのものづくりに挑戦したい 」
Q. 作家、画家を志したきっかけを教えてください
フリーランスのグラフィックデザイナーとして長く活動しておりミュージカルや演劇などの広告などを多く制作しているのですが、いわゆる商業デザインの分野ではデザインが非常に早い速度で消費されているように感じ、クライアントのためだけではなく、自身のためのものづくりに挑戦したいと思ったことが最も大きなきっかけです。そのほかには病気や出産など個人的な環境・心境の変化ということも大きく関わっているように思います。
Q. 作品を制作する上で大切にしていること、コンセプトやテーマについて教えてください。また、コンセプトやテーマを描こうと思った経緯はありますか。
古くから残り続けている紙を利用することで地続きの時間の流れや文化、あるいは人間の痕跡を表せないだろうか、ということをコンセプトに、時代の中で起こった出来事や物語をモチーフに描いています。時代の中では悲惨な出来事、残酷な出来事が多くありましたが、なるべく直接的な表現は避けて描きたいとは思っています。
現在のテーマとなったのは、チェコ旅行の際に調べた歴史的なこと、チェコ外務省の外郭団体であるチェコセンターで見せていただいた写真集「プラハ侵攻 1968(ジョセフ・クーデルカ)」、絵本「かべ ~鉄のカーテンのむこうに育って~(ピーター・シス)」などとの出会いをきっかけに、幼い頃にTVで見た「ベルリンの壁の崩壊」「ソビエト連邦の解体」など冷戦時の印象を思い出したからです。
− 歴史的背景をもとに新たなストーリーを紡いでいく。作品からも時の流れや趣を感じます。
Q.森田さんの作品には黒髪の美しい女性が多く描かれていて、儚げな表情や俯いている表情が印象的です。胸の奥に秘めている心情を語りかけているようにも感じられますが、モチーフの女性を通して表現したいこと、魅力についてお聞かせください。描かれている女性は特定のモデルさんがいらっしゃるのでしょうか?
出来事テーマを中心にお願いする方と物語テーマをお願いする方のお二人にモデルをお願いしています。事前に出来事や物語のシーンを選択して衣装の写真やポーズのイメージなどをまとめた資料を作り、モデルさんにも共有しています。その資料をもとに演技をする様な感じで撮影を行なっていますのでその表情がうまく表せれば嬉しいと思っています。
映画や演劇のようにシーンを想像したり、セリフや心情が感じられる作品が理想としていることの一つです。
Q. 森田さんの作品は、古紙や金箔といった画材を用いられていることで、ミステリアスで神秘的な世界観がより一層感じられます。画材選びのこだわり、制作時に大切にされていることなどお聞かせください。
洋書は海外に出かけた際や、(現在は渡欧が困難なので)付き合いのある海外の方から購入したり頂いたりしており、日本の古紙は神保町などで探して購入しています。例外はありますが、支持体となる古紙と作品との関係性はあまり持たせず「ひとつのもの(世界)」として表現したいと思っています。装飾は「過去の出来事」と「物語」を繋ぐようなイメージでどちらも物語の世界観のような見え方にしたいと思っているからです。立体的な表現にはジェッソや胡粉を用いて盛り上げています。
− 支持体に使われている古紙が背景に見える事で、また一つ深みのある世界観を演出されているのですね。ストーリー性を感じます。
Q. 日々の創作活動のなかで、ルーティンやリフレッシュ方法などがありましたらお聞かせください。また、どのようなときにインスピレーションを感じますか?
作品制作時は録画した「映像の世紀」などの番組や歴史をもとにした映画を流していることが多いです。そうした映像や資料などをもとに描く場面を選び、考えています。重いテーマの映像や書籍が続いて暗くなる時は、テーマの無いペン画やドローイング作品を描いています。普段の生活の中で子ども達といることが多いので、日常的なことは勿論、宿題や習い事をみたりボードゲームをするなどしています。
Q. 普段どのような場所で制作活動をされていますか?
長女が小学校に行くようになったこともあり、自宅の仕事部屋で制作をおこなっています。主に夜間に描いていますが、仕事の空き時間も利用できるようになっています。大きな作品は別な部屋に移動して描いています。
Q. ご自身の作家活動において影響を受けた人物や事柄などはありますか?
ロマン主義から象徴主義の時代の画家が特に好きで、中でもドラクロワ、ジェリコー、モロー、クリムトなどが好きです。自身がグラフィックデザイナーで演劇の仕事が多いということもあって、ミュシャの生涯は大変感銘を受けました。
作品のアイデアは映像や書籍などを見ている際に考えています。また、過去に旅行時の写真や資料・メモなどをもとに考える時もあります。歴史・社会的な出来事をテーマに選んだことは子どもの頃から好きなパンクロックの影響があるようにも思います。
Q.今後、作家活動で挑戦したいことはありますか?
作品のクオリティを上げることが大きな課題ではありますが、小説などの装丁、マジック:ザギャザリングなどのゲームやそのほかの分野での作品提供や、海外での展示などができるようになりたいと思っています。また、オリジナルのボードゲーム制作や、実際の出来事を元にした物語を架空の世界を舞台に描いた絵本を作りたいと構想中で、作品を描きつつ物語もまとめていきたいです。
−実際の出来事を元にしたオリジナルストーリー…是非読んでみたいです!
今後の展示情報
【グループ展】
7月 「喪服の肖像」ギャラリーザロフ(東京初台)
8月 「KENZAN」芸術劇場(東京池袋)
「賽の目を振るシビュラたち」ギャラリー オル・テール(東京・京橋)
9月 「オトナノタツコン」ギャラリー龍屋(愛知県尾張旭市)