
美術ヒストリー
アール・ヌーヴォー
その語源はArt(芸術)+Nouveau(新しい)の造語で「新しい芸術」を意味しています。19世紀初頭の産業革命によって人々の暮らしは劇的に変化していきますが、安価で使い勝手が悪い商品も多く市場に出回るようになります。そうした社会的背景の反動でより芸術性の高い作品を求める気運が高まり生まれたのがアールヌーヴォーです。花や植物をモチーフにした曲線的なデザインが特徴であり、この時代を代表する画家がアルフォンス・ミュシャです。ミュシャの作品は同時代の他の画家よりも華麗で美しく、代表作の一つ「ジスモンダ」はフランス演劇界トップの女優サラ・ベルナールを象徴的に描いています。その他にも工芸や建築などの分野で様々な装飾や新素材を用いた様式美が作られていきます。
アール・デコ
その語源はArt(芸術)+ Déco (装飾)の造語であり、アールヌーヴォーよりも装飾性を抑えながら芸術性や幾何学的なデザインが合理的なバランスによって保たれているのも大きな特徴です。良質なモノが一部の貴族だけでなく、大衆も享受出来るようになった時代でもあります。特にニューヨークで花開き、アールデコ期の建築ではクライスラー・ビルディングやエンパイア・ステート・ビルディングなどの高層ビル群がとても有名です。ジャポニズムの影響を受けたアール・デコですが、今度は建築家フランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテルなど、日本の近代建築へも多大な影響を与えていきます。
フォーヴィズム
荒々しい色彩による野獣(フォーヴ)を意味するフォーヴィズムは、感覚を何よりも大切にしました。その中心人物がアンリ・マティスです。大胆にデフォルメされた構図、どこまでも単純化された形や線、計算され尽くした補色によって色彩が引き立て合い、無限の平面性を感じるだけでなく、絵画の2次元性やそのマチエールについてマティスによって初めて芸術的成功へと繋がった時代といえるでしょう。奥行きではなく、ただそこに色と形が存在します。画面全体にリズムが生まれることで、どこまで絵画が自由になれるのか、本格的な挑戦が始まりました。目に見えない人間の感情を色彩で表わそうとした、芸術史に残る革新的な出来事でもあったのです。
キュビスム
パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックという偉大な芸術家によって生まれたのがキュビスムです。20世紀の美術史の中でも特に重要視されている芸術運動といえるでしょう。革新的であったのはその視点です。従来の絵画が1方向からの視点を基に描いたのに対して、様々な角度から見た視点を1つの作品へとまとめたのです。また対象物を分解して再構築することで独自の造形美を誕生させます。そしてキュビスム後期になるとマルセル・デュシャンが「階段を降りる裸体No.2」を発表します。これは時間を分解して平面的に表現しようと試みた作品で、これは絵画の2次元性の中に3次元の立体と4次元の時間という要素を加えたことが、従来のキュビスムとは大きく異なる部分です。キュビスム以降の芸術は全てキュビスムの影響を受けているといっても過言ではなく、新たな芸術が始まった時代ともいえます。
未来派
未来派は20世紀初頭のイタリアで花開いた芸術運動です。一言で言えばアヴァンギャルドです。詩人のマリネッティがイタリア全国紙の「フィガロ」の一面に「未来派宣言」を掲載したことが全ての始まりです。これが凝り固まった美術アカデミーへの強烈なカウンターパンチとなります。なぜなら当時の芸術の中心地はパリであり、半歩遅れていたと自覚的であったイタリア国内がこの宣言によって触発され、大きな熱狂へと包まれていくからです。未来派の中心人物であったウンベルト・ボッチョーニのブロンズ彫刻の代表作「空間における連続性の唯一の形態」は、様々な動きの形態を連続的に1つの作品の中で表現しています。こうして「速度」が生み出された美が誕生していきました。