「人間誰しもが持つ、不完全さを表現」ムネアツシ インタビュー
2021-03-01 作家インタビュームネアツシ / 画家
無機質な素材である機械パーツや金属スクラップ、架空の生き物で「人間らしさ」を表現する画家・ムネアツシさん。
ユーモアたっぷりで暖かみのある作品を制作するムネアツシさんに、作品に登場するモチーフに対する想いや、作品に込める想い、日々の制作について詳しくお話を伺いました。
ムネアツシ
1991年生まれ 大阪在住
金属スクラップや文字や漢字などのグラフィック、架空の生き物などモチーフは多岐に渡るが、無機物は有機的に、生き物はより生き生きと描かれ、誰もが抱く瞬間的な「心」のはたらきを独自の解釈でキャプチャし、グロテスクながらもファンタジックに描き出す。
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Q. 作家、画家を志したきっかけを教えてください
作家として活動を始めたのはいまから約6年ほど前からです。
幼少期から絵を描くことが好きで学生時代もずっとイラストを描いていたのですが、就職してから暫くは絵を描くこと少なくなって、落書き程度しか描いていませんでした。
ただその後、友人からイベントごとのフライヤーやグッズの絵などをお願いされる機会がありまして、それを通じて友達や発注をくれた人が喜んでくれるのが本当に嬉しかったのと、絵を描いてる自分がすごく生き生きしていると感じたので、そこから落書きではなく作品として残せる絵を描いていこうと思いました。
「生き物をより生き生きと描く」
Q. 現在の作風までの歴史、経緯などありましたら教えてください。
元々はパソコンでイラストを描いていたのですが、作家として活動し始めて一年程活動し始めたとある展示会で、その展示会のディレクターの方から『君の絵はデジタルではあかんよ。』と言われてから筆を使って絵を描くことを始めました。
その時は絵の具やキャンバスの使い方もわからず、アナログの手法に自信がなかったので筆の練習と並行して写真を使ったコラージュ作品を作っていました。
その後、少しづつ筆の感覚を掴んできたので、コラージュから離れ、下地の作り方や色の塗り方、レタリングの方法など作品ごとに試行錯誤を繰り返してきました。
ですが三作品毎くらいでモチーフや作風を変えていった為、次第に試行錯誤が迷走に変わり自分を見失っていきました。笑
2020年にはじめての個展を開いたのですが、それを境に機械のパーツやスクラップなどの「無機物を生き生きと描く」ことよりも「生き物をより生き生きと描く」ことにシフトしていき、いま現在の画風に至ります。
Q. モチーフの多くに“架空の生き物”や“無機質な機械”が描かれていますが、これらのモチーフに対する想いをお聞かせいただけますか?またきっかけなどありましたらお聞かせください。
機械パーツや金属スクラップは人間のもつ「不完全さ」のメタファーであり、ヒトとは一番遠いモチーフで「人間らしさ」を表現しています。
人間誰しも自分の臆病さやコンプレックス、他人への嫉妬、不満、怒りでいっぱいなのに、それでも上手に隠そうと、強く、賢く、優しいフリをして過ごしているんですね。
ただそれらを自分で隠しているくせに本当は「気づいて欲しい。わかって欲しい」だなんて思ってしまったりもするんです。
葛藤ばかりのバラバラになった「ちぐはぐ」な心の働きを、それ自体に機能を持たない「機械の寄せ集め」として描いています。
架空の生き物についても表現は異なりますが同じ「人間らしさ」の表現です。
ヒトは理性を持つ唯一の生き物でありながら、喜怒哀楽のような感情に流され一時的な欲求に従い、そして迷うような「理性的」であることと「動物的」であることとの間で揺れ動く心のはたらきこそが一番の「人間らしさ」だと思っています。
「ヒトなのに動物的」な矛盾への可笑しさを「動物なのに人間的」な生き物で描いています。
奇妙でありながらもどこか愛らしい姿形は、ヒトでありながらも残忍な心をもつ人間への逆説的な皮肉も込めています。
一枚の「絵」でありながら「読み物」のような作品に
Q. ムネアツシさんの描く作品はユーモアがあり温かさを感じました。作品の制作にあたり意識していること、また大切にしていること、伝えたいことなどはありますでしょうか?
できるだけ、見てくださった方に、より長い時間楽しんでもらえるような絵を心がけています。
イラストや絵画って、漫画や絵本やアニメーションとは違って、一枚でその物語や背景を伝えないといけないものなんですね。
なので初見でテーマを伝えられるインパクトも勿論大切なんですが、それに加え、ぼくなりのテーマや物語はあるものの、見てくださる方の想像力や独自の解釈によって、新しい物語を紡いでもらえるようにしたいなといつも思っています。
なので作品に描くキャラクターの顔や動きは敢えて表情を描かなかったり、無意味なポーズをとらせたりもします。
展示会ではお友達同士でその絵について語り合ったり、購入してくださった方が見る度に何度も楽しめるような、一枚の「絵」でありながら「読み物」のような作品になればと思っています。
Q. 作品のインスピレーションはいつ、どのようなときに浮かびますか?
怒りこそ創造の原点
映像や画像で降りてくるようなもんでもなくて、どちらかと言えば日常の楽しかったり、嬉しかったり、辛かったりした時とかに「あ、このカンジ絵に描こ。」って思うことが多いです。
そういうときの気持ちの揺れを忘れてしまいたくないんですが、「たのしい」とか「しんどい」とかっていう言葉ではどうしても表現しきれないときがあって、そんなときに『絵』という方法を使って補完するために描いているとも思えます。
いわば自分にとっての回りくどい日記やメモのようなものですね。もっと自分のボキャブラリーを鍛えれたらいいんですが。
あと、わりとハートフルな絵を描く時はストレス溜まってるときが多いです。笑
以前に「怒りこそ創造の原点や!」と近所のお兄さんが言っていたことがあります。
心に負荷がかかったときこそ物申したい事や、表現したいものが生まれるので、そのお兄さんが言うてたことってホンマにそうやなと思いますし、順風満帆で全てが満たされた世界だったら、きっとアートなんてものは生まれなかったと思います。
Q. 作品制作をするうえで、ルーティンや制作ペースなどについてはいかがでしょうか?
また普段どの様な場所で制作活動をされていますか?
平日は会社勤めのため、基本的に土日での制作になるんですが、キャンバスに向かう時間のとりづらい平日でも通勤の電車や、家事の合間などでアイデアスケッチや制作テーマの整理など、一日のうちどこかでは必ず制作に繋がる時間を設けようと心がけています。
それでも怠ける日は怠けるんですが。笑
絵を描く作業場は自宅のリビングの一角に設けている180cm幅くらいの作業スペースで制作しています。
そこに画材や資料なども置いているので、50号とかの大きな絵を描く時はかなりキツい。
むしろ100号とかの大きな絵を描いてる人はどこで描いているのか聞きたいですね。
友人に個人で古着の仕入れ販売をしている人や、「もの作りをしたい。」と話してくれる仲間がいるので、いつか彼らとアトリエ兼ギャラリーを設けるのが夢ですね。
Q. 制作中のリフレッシュ方法などありましたらお聞かせください。
一番の気晴らしは映画鑑賞ですかね。
趣味で自分のブログに面白かった映画のイラストと感想の記事を書いていたりするのでそれがすごく良い息抜きになります。
それでもしんどい時はSNSで子猫やパンダの動画を見て癒されています。
ただ走ってくるネコの動画とかめっちゃかわいいです。
Q. ご自身の作家活動において影響を受けた人物や事柄などはありますか?
その言葉が、原動力に
イラストレーターのナカムラミツルさんです。
中学生の頃に初めてそのイラストと詩を見て「ガガーン」と殴られるほどの衝撃でしたし、それで当時はナカムラミツルさんのイラストを真似した絵ばかり描いていました。
ぼくにとっての創作の原点です。
あと、まだ学生の時で作家として活動する前ではありますが、友人から「お前のイラストがいつか雑誌に載るのを見てみたい。」って言われてすごく嬉しかったのを覚えています。
多分言った本人は覚えてないでしょうが、いまでもその言葉がぼくの原動力になってます。
Q. 今後、作家として挑戦したいことはありますか?
漠然とですが、絵だけに限らず音楽や文章や踊りなど、広義での「表現」をすることに一歩踏み出せなかったり、何か挑戦してみたいという人たちと一緒に、活動の機会を設けられたらと思っています。
個人としては、どこか街の壁に絵を描いてみたいです。
大阪心斎橋のアメ村にある、マクドナルドの前に大きな壁画があるんですが。そんなやつを「どーん」と描いてみたいなと思います。
いつかそれが待ち合わせ場所とかになったらもう最高ですよね。「今週の土曜17時に「あそこ」の前集合な。」みたいな。
Q. SNSでの活動について、気を付けている事、実践している事、反響などはいかがでしょうか?
SNSはアカウントをもって更新はしているんですが、今まであまり何も考えずに使っていました。
しかし今の世の中、SNSの拡散力や影響力が大きくなっているので集客や自分の世界観を伝えるために、もう少しちゃんと頭を使って運用しなきゃいけないなと思っています。
その傍らでそれぞれのSNSにも流行り廃りがありますので、依存せずに自分の情報を発信できるプラットフォームの構築もしなきゃいけないなとも考えています。
今後の展示情報
2月の末に、イタリアミラノのギャラリーにて行われる、映像の展示会への参加予定をしています。
もちろんこのコロナの状況下で僕は現地へ行くことはできないのですが、作品を通じて海外の方とのコミュニケーションが取れることを楽しみにしています。
一方で、去年末から日本の昔話をテーマに新しく作品作りをしています。
開催予定や制作はまだまだですが、いつかそれらをまとめた絵本の個展を開きたいなと考えています。