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キュビズムとは何か
キュビズム(Cubism)は20世紀初頭にパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって生み出された美術の革新的なスタイルです。従来の遠近法や写実的な表現を排し、対象を幾何学的な形に分解し、複数の視点から描くことを特徴としています。
例えば普通のリンゴは一方向から見て描きますが、キュビズムの場合、リンゴを上・横・裏などいろんな角度から見た要素を一つの画面の中に組み込んで描きます。この技法により、単一の視点に縛られず、さまざまな角度から物体を表現することが可能になりました。
キュビズムは単なる絵画の手法ではなく、視覚の新しい捉え方を提示した芸術運動であり、その影響は美術に留まらず、建築、デザイン、映像など幅広い分野に波及しています。
当時の美術様式
キュビズムが登場した20世紀前後の美術界では、さまざまな前衛的な様式が生まれていました。特に19世紀末から20世紀初頭にかけては、伝統的な美術の枠を超えた新しい表現が次々と登場しました。
印象派(1870年代〜1880年代)
クロード・モネやピエール・オーギュスト・ルノワールらが活躍し、光と色彩の変化を重視した絵画スタイル。
ポスト印象派(1880年代〜1900年代)
ゴッホ、ゴーギャン、ポール・セザンヌらが印象派を発展させ、より個性的な表現を追求。
フォービズム(1905年〜1908年頃)
アンリ・マティスやアンドレ・ドランが中心となり、強烈な色彩と大胆な筆致を特徴とする運動。
キュビズムはなぜ生まれたのか
キュビズムが生まれた理由は、従来の絵画の概念に挑戦し、新しい視覚表現を追求するためでした。19世紀末から20世紀初頭にかけて、美術界では遠近法や写実的な表現に対する疑問が生まれ、「世界を一つの視点だけで捉える必要はない」という考えが広がっていました。
光と瞬間の再現から、形と構造の探求へ
19世紀末から20世紀初頭にかけて、美術の世界では大きな変革が起こっていました。印象派が「光と色の移ろいを瞬間的に捉える」ことに重点を置いたのに対し、ポスト印象派は「形や構造の探求、感情や象徴の強調」に重点を置きました。つまり、「いかに現実をそのまま描くか」ではなく「いかに視点や解釈を表現するか」が重要視されるようになっていきました。
遠近法と写実的な描写への疑問
ポール・セザンヌはキュビズム誕生の重要な前触れとなる画家です。彼の作品は対象を幾何学的な形で構成することに重点を置いており、「自然を円筒、球、円錐で表現するべきだ」という考えを持っていました。

『リンゴとオレンジのある静物』ポール・セザンヌ 出典:Wikipedia
伝統的な遠近法は、すべての物体が統一された視点から描かれます。しかし、セザンヌは対象ごとに異なる視点を適用し、皿や果物の配置をわずかに歪ませることで、画面に独特のバランスを生み出しました。セザンヌが直接キュビズムを生み出したわけではありませんが、キュビズムの理論的な礎を築いた重要な画家といえるでしょう。
キュビズムの特徴
形の分解と再構築
キュビズムでは対象物を細かく分解し、幾何学的な形に置き換えることで視覚的な再構築を行います。この手法により、単一の視点に縛られず複数の視点から見た要素を同じ画面上に表現することが可能になります。例えば、パブロ・ピカソの『アヴィニョンの娘たち』は、人物の顔や体が幾何学的な形に分解され、異なる視点から見た要素がひとつの画面上に組み合わされています。

Pablo Picasso, 1907, Les Demoiselles d’Avignon 出典:Wikipedia
遠近法の排除
キュビズムでは従来の絵画で用いられていた遠近法を否定し、画面を平面的な構成で表現することを重視しました。例えば、奥行きを作るための消失点を使用せず、対象を画面全体に均等に配置することで新しい視覚的秩序を生み出しました。これにより、形の関係性や構造そのものを強調することが可能になります。
さらに背景も単なる空間として描くのではなく構成の一部として組み込まれるため、画面内のすべての要素が調和しながら関係し合うようになっています。こうした平面的な構成によって絵画が「視覚の再現」ではなく「形の探求」として機能するようになったのです。
単色または限定的な色彩
初期のキュビズム(特に分析的キュビズム)では色彩の扱いよりも形の構造や分解・再構築に重点が置かれていました。そのため作品の多くはモノクロ、茶系、グレーなどの落ち着いた色調で描かれました。特にピカソやブラックの作品では陰影や線の強調によって奥行きや構造が表現され、色彩を使うことで感情や雰囲気を作るのではなく純粋に形の関係性を探求することが目的とされていました。
後期キュビズム(総合的キュビズム)になると色彩の扱いが変化し、より鮮やかで装飾的な要素が加わりました。フアン・グリスの作品などでは、鮮やかな色彩のコントラストを活かしながらキュビズムの構成を発展させています。

『果物皿とマンドリンのある静物画』(1919)フアン・グリス 出典:Wikipedia
パピエ・コレ
後期のキュビズム(総合的キュビズム)では、絵画の純粋な構成だけでなく、現実の素材を取り込むという新しい試みが行われました。その代表的な技法がパピエ・コレです。この技法では、新聞紙や布の切れ端、壁紙、木目の紙などをキャンバス上に貼り付け、絵画の一部として組み込むことで、視覚的な質感や現実感を強調しました。ピカソやジョルジュ・ブラックの作品では、絵の中に貼り付けられた文字や模様が絵画の構造と調和しながら、抽象的な形と結びつくようになっています。この試みは、その後のダダイズムやシュルレアリスムにも影響を与え、20世紀のアートに広く受け継がれることになったのです。
ピカソとブラックの革新
キュビズムの誕生に深く関わったのが、スペイン出身のパブロ・ピカソとフランス出身のジョルジュ・ブラックです。ピカソの『アヴィニョンの娘たち』は、この転換点となる作品で、従来の遠近法を無視し、幾何学的な形で人物を描きました。この作品がブラックに刺激を与え、彼もキュビズムの技法を発展させていきました。
ピカソの代表作とスタイルの変化
パブロ・ピカソはキュビズムを生み出した最も重要な芸術家の一人であり、そのスタイルは時代とともに変化しました。彼の代表作の中で、キュビズムを確立する上で特に重要なものをいくつか紹介します。
『アヴィニョンの娘たち』(1907年)
キュビズムの先駆けとなった作品で、伝統的な遠近法を排し人物を幾何学的な形で構成されています。アフリカ美術や原始美術の影響が色濃く、ピカソがキュビズムへと向かう転換点となりました。
分析的キュビズム(1908〜1912年)
この時期のピカソの作品は単色で構成され、形を細かく分解して再構築するスタイルが特徴です。代表作に『ギターを持つ男』があります。
総合的キュビズム(1912〜1919年)
分析的キュビズムの複雑さをやや抑え、色彩が豊かになり、パピエ・コレ(初期のコラージュ技法)が導入されました。新聞紙や壁紙をキャンバスに貼り付ける試みも行われ、より装飾的な側面を持つようになっています。代表作に『籐椅子のある静物』があります。
ピカソはキュビズム以降もスタイルを変化させ続け、シュルレアリスムや抽象表現を取り入れた時期もあります。特に『ゲルニカ』(1937年)はキュビズム的な手法を使いながらも、戦争の悲惨さを象徴する強烈なメッセージを持つ作品として知られています。
ピカソ以外のキュビズムの画家
ジョルジュ・ブラック(Georges Braque)
ピカソとともにキュビズムを確立した画家です。特に分析的キュビズムにおいてピカソと共に「多視点の表現」を追求しました。『葡萄酒のグラス』『楽器と果物』などが代表作。
フアン・グリス(Juan Gris)
キュビズムのなかでも色彩を使いバランスが取れた構成を生み出しました。『ヴァイオリンとグラス』などが代表作。
フェルナン・レジェ(Fernand Léger)
キュビズムを独自に発展させ、機械的な要素や未来派の影響が取り入れられています。円筒形や機械的な構成が特徴で、キュビズムをモダンアートへと結びつけました。『鏡を持つ女性』
キュビズムに対する批判と議論
キュビズムが登場した当初、美術界や一般の人々からは強い反発を受けました。伝統的な遠近法や写実的な表現を否定し、対象を幾何学的な形に分解・再構築するスタイルは当時の美術の常識を覆すものでした。
批評家ルイ・ヴォークセルがジョルジュ・ブラックの作品を見た際、「すべてが立方体(キューブ)に還元されている」と評したことがキュビズムの由来です。この発言は当時の伝統的な絵画のスタイルから大きく逸脱していたブラックの作品に対する否定的な評価として使われました。
しかしピカソやブラックがこのスタイルを発展させるにつれ、「キュビズム」という名称は単なる批判ではなく、新しい美術運動の象徴として定着していきました。結果的にキュビズムは20世紀美術の重要な転換点となり、後の抽象芸術や未来派などにも影響を与えることになったのです。
影響を受けた後の芸術運動(シュルレアリスム・未来派)
キュビズムはその後の美術に大きな影響を与えました。特に以下の二つの運動との関係が深いです。
シュルレアリスム(超現実主義)
1920年代にフランスで生まれた芸術運動で、夢や無意識の世界を表現することを目的としています。詩人アンドレ・ブルトンが1924年に「シュルレアリスム宣言」を発表し、理性や論理を排除し、自由な発想を重視するスタイルを確立しました。代表的な画家にはサルバドール・ダリ、ルネ・マグリットなどがいます。彼らの作品には現実と幻想が交錯する奇妙なイメージや意外なモチーフの組み合わせが見られます。
未来派(Futurism)
20世紀初頭イタリアを中心に展開した未来派は「動き」に焦点を当てた表現を追求しました。キュビズムが視点を分割して物体を描いたのに対し、未来派はそれをさらに発展させ動的なスピード感やエネルギーを作品に取り入れることを特徴としました。
未来派の火付け役となったのは、詩人フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティの「未来派宣言」でした。イタリアの新聞「フィガロ」に掲載され、イタリアの芸術家たちに新たな刺激を与えました。ウンベルト・ボッチョーニの作品『空間における連続性の唯一の形態』は、動きを連続的に表現し、「速度」をテーマにした美を創出しました。
現代の生活にもある美術様式
キュビズムは現代アートの基礎を築いたといっても過言ではありません。このスタイルの登場によって、アーティストたちは従来の美術の枠を超え、自由な表現を追求するようになりました。今日のアートシーンにおいても、多くのクリエイターが視点の多様性や形の抽象化を活用した作品を生み出しています。このように、キュビズムは単なる美術史上の一時的な潮流ではなく、現代アートの基盤として今もなお影響を与え続けているのです。
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