
技法レポート
凹版画(胴版画)
15世紀の半ば頃からイタリアやドイツで胴版画が登場し、そこから約1世紀の年月をかけて胴版画(凹版)の技術は格段に上昇しました。それに伴い一般的な木版画は衰退していくこととなります。なぜなら木版画では困難で緻密な作業が胴版により可能となったからです。素描したものを木版画にするよりもはるかに簡単になったことも大きく、技術的にはドイツの画家アルブレヒト・デューラーによって最高峰まで到達しました。しかし胴版画も木版画と同じような運命を辿るのです。19世紀に入ると写真技術が発展していき、商業的な需要そのものが激減していきます。とはいえ、その独特な表情を愛する芸術家も多く、それが今日まで胴版画が芸術の分野で生き残り続けている要因です。
平版画(リトグラフ)
1800年代はリトグラフ全盛の時代へと突入していきました。主にフランスとドイツの職人による開発によって短期間で技術革新を成し遂げました。このリトグラフを使った代表的な画家がロートレックです。代表作となったパリのキャバレー「ムーラン・ルージュ」を描いた歴史的なポスターは多くの方が知っているでしょう。日本の浮世絵に見られる手法を大胆に取り入れているのも特徴です。また同時代には、アールヌーヴォーの旗手である画家アルフォンス・ミュシャもポスター作品を発表しています。ロートレックとミュシャのポスターは大人気となり、リトグラフは黄金期を迎えることとなりました。
孔版画(シルクスクリーン)
孔版画とはインクが通過する穴と通過しない穴を組み合わせた型を作り、印刷していく技法です。一般的にはシルクスクリーンの名前で知られており、擦る際に版に張られている布のこと「紗」と呼びますが、昔は布部分にシルクを採用していたことが理由で、今ではこうした呼ばれ方が浸透しました。現在でもTシャツなどの布地に印刷する最もポピュラーな手法として採用されています。シルクスクリーンの代表的なアーティストといえば「アンディ・ウォーホル」以外にいないでしょう。大量消費・大量生産をテーマにするウォーホル作品に、シルクスクリーンは欠かせない技法だったのです。耐久性も抜群で様々なインクが使用可能であるため、多様な表現が可能であることも大きなメリットです。
浮世絵
浮世絵が庶民の日常に浸透していったのは江戸時代の頃です。書物の挿絵などを描く絵師の菱川師宣が本の内容よりも人気を集める現象が起こったのです。それがきっかけで自身で描いた作品を黒一色の版画で擦り始めたことが浮世絵の起源と言われています。あまりにも身近であった浮世絵は長らく美術画として扱われず、保管する者はほとんどいませんでした。その証拠に現在までに残っている7割以上の浮世絵が海外に渡っています。つまり浮世絵は外国人によって評価され、逆輸入的に日本でも評価されるようになったのです。その大きなきっかけが1867年のパリ万国博覧会です。日本趣味と言われるほどのジャポニズムブームがヨーロッパで巻き起こり、当時の印象派の画家たちにもにも多大な影響を与えています。特に影響を受けたゴッホに至っては、日本がフランスより南にあることから、南フランスのアルルへと移住したことを弟のテオとの往復書簡から推察できます。浮世絵が持つデフォルメされた大胆な構図やどこまでも平面な世界は、多くの芸術家を触発したのです。浮世絵は多くの芸術家を刺激するだけでなく、一般庶民も楽しむことができます。一部の特権階級ではなく大衆に開かれた絵であることも、浮世絵の面白さではないでしょうか。
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