【美術技法】凹版画、平版画(リトグラフ)、孔版画(シルクスクリーン)、浮世絵などの版画技法について解説

2022月04月12日 アートの知識

凹版画(銅版画)

凹版画(おうばんが)は、版画の一種であり、版の表面に凹凸を持たせてインクを塗り、それを用いて印刷する技法です。別名として「銅版画(どうばんが)」とも呼ばれます。

凹版画の制作には、版の表面に凹凸を作るための彫刻やエッチングの技法が使用されます。主な凹版画の技法としては、エングレービング、エッチング、ドライポイント、アクアチントなどがあります。これらの技法は、版面に凹凸を作り出すために、鋭い彫刻刀や酸などを使用します。

一般的な凹版画の制作プロセス

  1. 版の準備: 制作したいイメージに応じて、版材(通常は金属やアクリル)を選びます。版の表面を磨いたり、エッチング剤で凹凸を作るための下地を作ったりします。
  2. 凹凸の形成: 彫刻刀やエッチング剤を使用して、版の表面に凹凸を作り出します。彫刻刀で版面を切り削りながらデザインを形作る方法や、エッチング剤を使用して酸で版面を蝕みながら凹凸を作る方法があります。
  3. インクの塗布: 凹凸の部分にインクを塗ります。凹部に残ったインクを版面から拭き取り、凸部のみにインクが残るようにします。
  4. 印刷: インクを塗った版面を印刷用紙や他の素材に圧力をかけて押し付けることで、インクを転写します。版と紙の間の圧力によって、凹凸がある版面からインクが移され、印刷されます。

凹版画の特徴

  1. 豊かなトーン表現: 凹版画は凹凸のある版面から印刷するため、独特のトーン表現が可能です。凹部は濃く、凸部は薄く印刷されるため、陰影や立体感の表現が豊かです。
  2. 手彩色の組み合わせ: 凹版画には、彩色することで鮮やかな表現が可能な手彩色の要素も組み合わせることができます。
  3. 印刷された版画に手作業で色を塗ることで、個々の作品に独自の色彩と質感を与えることができます。
  4. 制作の反復性: 凹版画は、一つの版から複数の印刷を作成することができる反復性があります。同じ版を使用して複数の作品を制作することができるため、作品の増刷や限定版の制作に適しています。

凹版画は、その独特の表現力と技法によって、版画作品の中でも重要な位置を占めています。芸術家や版画家によって様々なスタイルやテクニックで制作され、美術館やギャラリーで展示されることもあります。

凹版画の歴史と変遷

15世紀の半ば頃からイタリアやドイツで胴版画が登場し、そこから約1世紀の年月をかけて胴版画(凹版)の技術は格段に上昇しました。それに伴い一般的な木版画は衰退していくこととなります。なぜなら木版画では困難で緻密な作業が胴版により可能となったからです。

素描したものを木版画にするよりもはるかに簡単になったことも大きく、技術的にはドイツの画家アルブレヒト・デューラーによって最高峰まで到達しました。しかし胴版画も木版画と同じような運命を辿るのです。19世紀に入ると写真技術が発展していき、商業的な需要そのものが激減していきます。とはいえ、その独特な表情を愛する芸術家も多く、それが今日まで胴版画が芸術の分野で生き残り続けている要因です。

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平版画(リトグラフ)

平版画は、版画の一種であり、平滑な版の表面にインクを塗り、それを用いて印刷する技法です。代表的な平版画の一つとしてリトグラフがあります。

リトグラフは、石版画とも呼ばれ、主に石灰岩の平滑な石版(リトグラフ石)を使用して制作されます。

一般的な平版画(リトグラフ)の制作プロセス

  1. 石版の準備: 制作するイメージに応じて、適切なサイズの石版を選びます。石版の表面を磨いたり、滑らかにしたりします。
  2. イメージの描画: 石版の表面に専用の油性クレヨンやリトグラフのインクを使用してイメージを描画します。この時、インクは石版の表面にしっかりと付着します。
  3. 固定剤の処理: 描画したイメージに固定剤を塗布します。固定剤は石版の表面に薄い保護膜を形成し、インクが浸透しないようにします。
  4. 水と油の反発作用を利用した印刷: 石版を水で湿らせます。水は石版の保護膜部分には浸透せず、インクが付着している部分にだけ留まります。その後、石版に油性の印刷インクを塗布します。油と水は反発作用を起こすため、インクは水の部分からはじかれ、インクが付いているイメージ部分にだけ留まります。
  5. 印刷: 石版の上に印刷用紙を載せ、圧力をかけることでインクを転写します。印刷用紙と石版の間に圧力をかけることで、インクが印刷用紙に移されます。

一般的な平版画(リトグラフ)の特徴

  1. 豊かなトーン表現: リトグラフは石版の表面に描かれたインクの厚みや濃淡を利用して、豊かなトーン表現が可能です。繊細な線や滑らかなグラデーションを表現することができます。
  2. 複製性と限定性: リトグラフは石版を使用して制作されるため、同じ版から複数の印刷を作成することができます。そのため、増刷や限定版の制作に適しています。
  1. 手彩色の組み合わせ: リトグラフには、手作業で色を塗ることで色彩の表現が可能な手彩色の要素も組み合わせることができます。

リトグラフは、その独特の技法と表現力によって、版画作品の中でも重要な位置を占めています。多くの芸術家や版画家によって様々なスタイルやテクニックで制作され、美術館やギャラリーで展示されることもあります。

平版画(リトグラフ)の歴史と変遷

1800年代はリトグラフ全盛の時代へと突入していきました。

主にフランスとドイツの職人による開発によって短期間で技術革新を成し遂げました。このリトグラフを使った代表的な画家がロートレックです。代表作となったパリのキャバレー「ムーラン・ルージュ」を描いた歴史的なポスターは多くの方が知っているでしょう。日本の浮世絵に見られる手法を大胆に取り入れているのも特徴です。

また同時代には、アールヌーヴォーの旗手である画家アルフォンス・ミュシャもポスター作品を発表しています。ロートレックとミュシャのポスターは大人気となり、リトグラフは黄金期を迎えることとなりました。

孔版画(シルクスクリーン)

孔版画(こうばんが)は、版画の一種であり、メッシュ状のシルクスクリーン(絹網)を使用して制作される技法です。別名として「シルクスクリーン」とも呼ばれます。

孔版画の制作には、シルクスクリーンと呼ばれるメッシュ状のフレームと、そのフレームに張られたシルクやポリエステルなどの細かな孔(穴)が必要です。

一般的な孔版画(シルクスクリーン)の制作プロセス

  1. シルクスクリーンの準備: シルクスクリーンフレームに細かな孔が開いたシルクやポリエステルの生地を張ります。これにより、インクが通過できる孔の部分と通過できない部分が形成されます。
  2. イメージの形成: 制作したいイメージに応じて、シルクスクリーンの孔をブロックアウトするためのシート(ステンシル)を作成します。ステンシルは、画像の形状に合わせて孔を開けた薄い材料です。
  3. インクの塗布: インクをシルクスクリーンの上に配置し、スクリーン印刷ブレードやローラーを使用して均等に塗ります。インクはシルクスクリーンの孔を通過して印刷面に転写されます。
  4. 印刷: シルクスクリーンを印刷物(紙、布、プラスチックなど)の上に配置し、シルクスクリーン印刷機や手作業で圧力をかけながら、インクを印刷物に転写します。インクはステンシルの孔を通過し、印刷物の上に模様やイメージを形成します。

孔版画(シルクスクリーン)の特徴

  1. 豊富な色彩表現: 孔版画は、複数のステンシルを使用することで、複雑なカラフルなイメージやグラデーションを作成することができます。インクの種類や色の組み合わせによって、多様な色彩表現が可能です。
  2. 平面的で鮮明なイメージ: 孔版画はシルクスクリーンの孔を通じてインクが転写されるため、鮮明で平面的なイメージが得られます。緻密なディテールやシャープな輪郭を持つ作品を制作することができます。
  1. 多様な素材への印刷: 孔版画は様々な素材への印刷に適しています。紙、布、プラスチック、ガラスなど、さまざまな素材にインクを転写することができます。

孔版画は、その独特の技法と表現力によって、版画作品やポスター、テキスタイルデザインなど様々な分野で使用されています。芸術家やデザイナーによってさまざまなスタイルやテクニックで制作され、美術館やギャラリーで展示されることもあります。

孔版画(シルクスクリーン)の歴史

孔版画の原型となる技術は、古代中国の絹織物の印刷技術にまでさかのぼります。紀元前4世紀から紀元前5世紀にかけて、中国では絹糸で張られた細かな孔を作り、それを経糸として使った織物の染色技術が発展しました。

中国の絹織物の染色技術は日本にも伝わり、日本では平安時代から室町時代にかけて、絹織物の装飾や屏風、屏風絵などに孔版の技法が使用されました。

シルクスクリーンは20世紀初頭から本格的に美術界で注目されるようになりました。特にアメリカでは、ポップアート運動や商業広告の分野で広く使用されました。

アーティストたちは大型のシルクスクリーンを用いて、大胆でカラフルな作品を制作しました。 現代では、シルクスクリーンは芸術家やデザイナーによって幅広く使用されています。

テキスタイルデザイン、ポスター、版画、版画作品など、さまざまな分野で活用されています。技術の進歩により、シルク以外の素材や高度なスクリーン印刷機が開発され、より多様な表現が可能となっています。

浮世絵

浮世絵(うきよえ)は、18世紀から19世紀にかけて日本で発展した、木版画による大衆向けの絵画のスタイルです。浮世絵は、江戸時代の日本の都市文化や大衆の娯楽文化と深く結びついており、その特徴的なスタイルやテーマで知られています。

一般的な浮世絵の制作プロセス

  1. 構想とデザインの策定: まず、作品の構想を練り、デザインを策定します。テーマや要素、構図、色彩などを考えます。
  2. 下絵の作成: 構想したデザインをもとに、下絵を作成します。下絵は、線描や彩色の指針となる図面であり、版木に彫る際の基準となります。
  3. 版木の準備: 次に、制作に使用する版木(木版)を準備します。版木は通常、桜や楮(こうぞ)などの木材を選んで用意されます。版木の表面を平坦に整え、彫刻用の刃物で彫り込む準備を行います。
  4. 彫刻: 彫刻は版木に行われます。彫りたい部分を刃物や彫刻刀で丁寧に削り取りながら、デザインの線や形を表現していきます。彫刻の深さや彫り方によって、色ののり具合や表現の質感が変わります。
  5. 色の準備: 刷る色を準備します。伝統的な浮世絵では、顔料を使用して手作業で色を調合し、均一な色調を作ります。各色に対応する版木を準備し、彩色するためのインクを塗ります。
  6. 彩色: 準備したインクを版木に塗り、彫り込んだ彫刻面に均等に塗り広げます。色が版木の彫り込まれた部分にのり、刷る色が転写されることで、彩色された浮世絵が完成します。
  7. 刷り作業: 彩色された版木を用いて、紙や布などの素材に刷り作業を行います。版木の上に紙を敷き、手や刷毛で版木の裏面を力強く叩くことで、インクが紙に転写されます。この作業を繰り返し、複数の版を重ねて彩色された浮世絵が完成します。

制作プロセスは版木彫刻から刷り作業までの工程ですが、これ以降に需要がある場合は額装や仕上げ作業も行われます。また、版木は耐久性や再利用性の観点から複数枚作られることが一般的で、それぞれの版木で色彩や細部の表現を担当することもあります。

なお、現代ではデジタル技術を組み合わせた浮世絵の制作も行われており、コンピューターでデザインや彩色を行い、最終的に版木彫刻と刷り作業を組み合わせる場合もあります。

一般的な浮世絵の特徴

  1. 木版画による制作: 浮世絵は、木版画の技法を使用して制作されました。木版画とは、木版に彫り込んだ図柄に色を塗り、それを紙に転写する技法です。木版画の特徴的な質感や独特の線画が、浮世絵のスタイルを形成しています。
  2. 明るい色彩と豊富なディテール: 浮世絵は、鮮やかな色彩と豊富なディテールで特徴付けられます。彩色された木版画や複数の版を重ね合わせて彩色することで、鮮やかで立体的な絵画が生み出されました。
  3. 都市の日常生活や娯楽の描写: 浮世絵は、江戸時代の都市の日常生活や娯楽の情景を描写することが多かったです。芸者や歌舞伎役者、風俗や風景、有名な場所や祭りなど、身近な題材が取り上げられました。これらの作品は庶民の間で人気を博し、浮世絵は大衆の娯楽となりました。
  4. 版元と絵師の共同制作: 浮世絵は、版元と呼ばれる出版業者と絵師(画家)の共同制作で行われました。版元は市場や需要を把握し、絵師に対して依頼を出し、制作された作品を販売しました。絵師は自身の名前や印章を版画に入れることで、作品の販売と名声を得ることができました。

代表的な浮世絵師には、歌川広重、葛飾北斎、喜多川歌麿などがあります。彼らの作品は、風景や美人画、歌舞伎の役者などを描いたものが多く、芸術的

な価値や技術の高さによって高く評価されています。

浮世絵は、日本の美術史や文化史において重要な位置を占めており、その美しい図像や豊かな色彩は世界中で称賛されています。また、浮世絵のスタイルや要素は、後の日本の美術やデザインにも影響を与えたと言われています。

浮世絵の歴史

浮世絵が庶民の日常に浸透していったのは江戸時代の頃です。書物の挿絵などを描く絵師の菱川師宣が本の内容よりも人気を集める現象が起こったのです。それがきっかけで自身で描いた作品を黒一色の版画で擦り始めたことが浮世絵の起源と言われています。

あまりにも身近であった浮世絵は長らく美術画として扱われず、保管する者はほとんどいませんでした。その証拠に現在までに残っている7割以上の浮世絵が海外に渡っています。つまり浮世絵は外国人によって評価され、逆輸入的に日本でも評価されるようになったのです。

その大きなきっかけが1867年のパリ万国博覧会です。

日本趣味と言われるほどのジャポニズムブームがヨーロッパで巻き起こり、当時の印象派の画家たちにもにも多大な影響を与えています。特に影響を受けたゴッホに至っては、日本がフランスより南にあることから、南フランスのアルルへと移住したことを弟のテオとの往復書簡から推察できます。

浮世絵が持つデフォルメされた大胆な構図やどこまでも平面な世界は、多くの芸術家を触発したのです。浮世絵は多くの芸術家を刺激するだけでなく、一般庶民も楽しむことができます。一部の特権階級ではなく大衆に開かれた絵であることも、浮世絵の面白さではないでしょうか。

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